足に合う登山靴ってなにか?についてわたしが考える時、いつも2014年に挑戦したスペインロングトレイルが思い出される。
足にマメをつくって先に進めなくなる数多くのハイカーたち。
そのときのわたしは、立派な登山靴を履いているベテラン(そうな)ハイカーたちが次々と脱落する姿に疑問を抱いていた。
その疑問は、数年たった今でもわたしの登山靴に対する考えに、様々なスパイスを与えている。
スペインへ
私は2014年、モンベルでハイキング用のローカットシューズを新しく手に入れ、スペインのカミーノ巡礼に旅立った。
それまで山登りや長期旅を経験してはいたものの、本格的な登山靴をはいたことのなかった私はミドルカットやハイカットの登山シューズは選ばなかった。
その理由は「なんか履きにくそう」。
初めてのハイカットやミドルカットはわたしにとっては手の届かない、「わたしにはまだ早そう」なものに見えた。
だがローカットでもずっしりと重みのあるその靴は、これから旅の相棒になるんだと、十分に特別な気持ちを与えてくれた。
そしてそのシューズとは別に、履きなれたニューバランスのスニーカーも、お守りとしてバックパックにつめた。
この2つの靴がもたらした、いまでも奇妙な登山靴の謎を今日は話したい。
10年前のハイカーたち
10年前の当時では、ほとんどのハイカーがミドルカットやハイカットを履いていた。
土がついてくたっとしている。何年も履きならしているんだろう。わたしには上級ハイカーにみえてちょっと眩しかった。
それが、ロングトレイルを始めて1週間ほどたった頃から、先に進めなくなるハイカーが続出しだした。
理由を聞いてみると、「足にマメができて痛くて歩けない」。持参した針でマメをつぶし、数日治療にあてていた。
そんなハイカーの一人に、韓国人のミカエルがいた。
出発地で言葉を交わしたことのあったわたしたちは、なにかとトレイルで顔を合わすことも多かった。
年下で人懐っこい彼はいつもニコニコ、トレイルを歩いていた。
そんな彼がある日、田舎町の宿で再会したわたしに「もう先に進めない」と深刻な面持ちで話しかけてきた。マメが痛々しく彼の足の裏にたくさんできていたのだ。
どうやら、彼の履いていたハイカットシューズが足に合わなかったようだ。
わたしは、ミカエルに旅を続けてほしくて、ある提案をしてみた。
「わたしの靴履いてみる?」
今思えば変な提案だ。
ところがわたしの靴に足を入れたミカエルの顔がパッと明るくなった。
「Fahe , Very Very good!」
その日からミカエルがわたしの靴を、わたしがミカエルの靴を履いて、トレイルが再び始まった。
彼はそれ以上足に問題を抱えることなく、どんどんトレイルを進んでいった。
わたしもわたしで、2cmは大きい彼のハイカットシューズがなぜか足に合い、なんの問題もなく歩き続けることができた。
予備に入れておいたニューバランスの靴も、ほとんど出番はなかった。
いま思えば奇妙な経験だった。
ゴールにて再会
最終地点のサンティアゴに数日前に着いていた彼は、わたしのゴールを待っていた。
そして謎の連帯感を分け合ったわたしたちは、メイン教会の玄関で数週間ぶりに顔を合わし熱い抱擁を交わした。
久しぶりにみた、元気そうな彼と彼が履いているわたしの靴。お~~~なんかなつかしい~~~~
「Faheのおかげで完歩することができたよ」と、めいっぱいの感謝の気持ちを手紙にして渡してくれた。
わたしも、この見知らぬ土地で、こんなことがきっかけでソウルメイトができるとは想像もしていなかったし、とにかくお互い無事にゴールまでたどり着けたことがなにより嬉しかった。
このミカエルとは、その後この10年間も、日本や韓国で何度も再開を果たしていることはいうまでもない。
答えがでない登山靴の疑問
この経験から、登山靴に対する疑問がたくさん湧いてきた。
・足に合う登山靴とは?
・経験豊富なハイカーがマメを作ってしまったのは?
・逆にわたしはなんでマメができずに歩けたんやろう?
・足のサイズも体格も違うわたしたちが靴を交換しても大丈夫だったのは?
この疑問はいまも解決されることはなく、わたしの中で永遠のテーマになっている。
サイズ選び、
防水・非防水、
重さの違い、
素材の違い、
型の違い、
インソールの違い、
偏平足や外反母趾など足が抱える悩み、
靴下との相性
などなど。
靴選びにはいろんな要素が挙げられる。
あれからいくつかの登山靴を試してきたが、
馴染まなかった靴もやっぱりある。
ミカエルの靴が履けたからと言って、わたしの足が万能なわけではない。
いま、わたしは登山ショップで店員をしているが、
登山靴の接客をするたび、そしてお客さんの悩みや経験談をきくたび、
登山靴のその奥深さに探求心がとまらないのである。
もっといろんな靴を試してみたい。
おまけ
わたしはこの経験をした4年後の2018年、
再びスペインに飛び立った。
スペインでのロングトレイルがとにかく恋しかった。
ミカエルをはじめ、助け合ったたくさんのハイカーたちとの思い出や、
景色や匂いに導かれ、
またあの道を歩いた。
ミカエルに貸してあげた靴を履いて。
おわり