去年から今年にかけて、登山のテント泊で寒くて寝られない日がよくあった。
5月残雪期の北アルプスでも、1日目はやはり寒くて寝られなかったわたしは、ある仮説にたどり着き、2日目に実験をしてみることに。
2日目|5月末 残雪期の北アルプス 徳沢→蝶ヶ岳。踏み抜きにビクビク

こちらはその実験結果ブログです。

筆者きむ ふぁへ
登山店で働きながら休日に山に登っています。今回は登山店スタッフとして得た知識+実体験を通してわかった、寝袋と服装の選び方について、ブログにしてみます。
寝袋の快適温度って?どんな服装で寝た場合?

↑これはモンベルの公式サイトで見られる表です。この表に書かれている指標はモンベル独自のものではなく、国際基準に基づいたものとなってます。
- 快適温度(Comfort):一般女性のような寒さに弱い人でも寒さを感じずにリラックスして眠れる温度。
- 使用可能温度(限界温度)(Limit):一般男性のような寒さに強い人が丸まって8時間眠れる温度。
- 危険温度(Extreme):低体温症になる手前で6時間過ごせる温度。
point:寝袋を選ぶときは、”快適温度”を指標にするのが賢明です。

◎寝袋の表記には国際的な基準がある?◎
いろんなメーカーの寝袋で見られる「快適温度」や「使用可能温度」といった表記ですが、これは国ごとやメーカーごとのばらつきをなくすため国際的に認められたEN・ISO規格に沿った評価基準なのです。人それぞれで寒さの感じ方には大きな差があるため、規格で統一しているんですね。
ただ、この基準は欧米の基準となり、欧米人に比べて寒さに弱いと言われるアジア人であるわたしたちが寝袋を選ぶ際は、4~5℃余裕をもっておくことがおすすめです。
そして、上記の「快適温度・限界温度」などとというのは、「着こまずに、肌着やパジャマくらいの軽装で寝た場合」を想定しています。
(※数値を出すための実験では、アンダーウェアを着たマネキンで測定しているからです)標準男性(身長173cm・体重73kg)と標準女性(身長160cm・体重60kg)
ここで出てくる疑問。登山店で働くときにお客さんにもよく聞かれる質問があります。それは「快適温度をもっとあげるには服を着込んだらいいのでは?」ということ。今回はその点に着目します。
北アルプスでの実体験
この日、持って行っていたのは快適温度4℃のモンベルダウンハガー#3。テントの中は9℃くらいだったから、とくに問題はないはずだった。なのに標高もそこまで高くない1日目の徳澤園で寝られなかった。

わたしは今まで「快適温度をあげるには服を着込んだらいい」と思い、持ってきたダウンジャケットをたくさん着こんでいた。
「それは実は逆効果だ」という仮説がたった。いろいろ調べてみたら、やっぱり「寝袋に入るときは脱いだ方が良い」という情報がたくさんでてきた。(この記事がとくに参考になりました)
その理由は、「自分の体温を寝袋に行き渡らせるべきだから」ということだ。体から発した熱が服を通り寝袋の中を巡回するからだ。なるほど…たしかに、着込めば着込むほど、自分の体温は服にシャットダウンされ、寝袋まで届かない。
それが原因だったのか。
ちなみに、登山を始めたて頃は、寒さが怖くてレインウェアを着込んでシュラフに入った夜もあったが、レインウェアは防水のメンブレンフィルム(例ゴアテックス)が体温をシャットダウンするからどんな服よりNGだということをその時に学んだ。そしてその理由はすぐに理解できた。
だが、ダウンジャケットは寝袋と同じダウンだから、相乗効果でより暖かくなるのでは?と、思い込んでいた。

ダウンの寝袋にダウンジャケット(化繊も含む)は無意味?
ダウンジャケット(化繊含む)は、ダウンの寝袋と共通して「体の熱を内側にとどめて外に出ないようにする&外からの冷気を遮断する」ことで保温性を確保している。
ということは、ダウンジャケットを着た状態で寝袋に入ると、ジャケット内部はある程度体温で暖まるが、その熱が寝袋側へと伝わることはできない。ジャケットの表面生地によってシャットダウンされてしまうイメージだ。
その結果、寝袋本来の保温性能がうまく発揮されにくくなってしまう、という論理になる。
そのことを、徳澤園で寝られなかった翌朝に、もしかして、と気が付いた。2日目は寝袋内でいつも着ていたダウンをこの日は着ずに寝ることにした。

ちなみに、レインウェアやダウンジャケットのように、通気しにくい服は先述の理由で避けたほうがいいが、フリース(アルファダイレクトやオクタなども含む)やセーターなど、通気性があるものであれば体温が服の外に伝わりやすいので、寝袋との相性が良いとのことだった。
ということで2日目に選んだ服がこちら。
メリノのアンダーウェア / メリノのロングスリーブ / 薄めのフリース、の3枚重ね。(1日目はこれプラス、ダウンジャケットとダウンベストを着込んでいた。)
- 初日よりは標高があがり気温は下がっていた(1日目徳澤園→2日目蝶が岳)
- ダウンジャケット・ダウンベストを脱いだ
にも関わらず、2日目のこの日の方が、よく寝られた。寝袋の暖かさが体にジーンと届くのがよく感じられた。
一番気温が下がる夜中の2時3時はさすがに寒さで何度か目が覚めたが、それでもましだった。
●実験結果●

実験結果としては「寝袋内ではダウンジャケットやレインジャケットは脱ぎ、アンダーウェアのみ、もしくは重ねるなら通気性の良い服を選ぶべし」という答えとなった。

ただしフリースやセーター類はダウンよりも重いしかさばるので、できるだけ”軽くてかさばらず、なおかつ暖かいもの”を厳選する必要があるな、とこの時感じました。
寝袋内でダウンジャケットを着込んだ方が良いパターンとは
例外にも、ダウンジャケットを着こむ方が良いパターンというのもあるようだ。それは、テント内の温度が非常に低く、寝袋内と寝袋外の温度差が大きく開いてしまう場合。
雪山がわかりやすい例となる。
(*わたしは冬山のテント泊はまだしたことがないので、ここからはリサーチした情報を記載します)
雪山でのテント泊となると、外気温は-15℃とかになってくる。テントの中も極寒だ。テント内で過ごす時間、寝袋に入る前、トイレなどで寝袋から出る時、いつでも極太のダウンジャケットで寒さを凌ぐことになる。
そんなシチュエーションでは、先ほどの実験結果である「寝袋内ではダウンジャケットを脱いでアンダーウェアもしくは通気性の良い服」になることがなかなかできない。
寝返りをうったりトイレにいったりして寝袋内に冷気が少しでも入ると一気に冷えてしまう。そして一度冷えてしまった寝袋内をもう一度体温で温め直すにはかなりの時間を要するので、分厚いダウンジャケットを着たままにしておく、というのが自然な選択肢となるようだ。
「雪山でもダウンジャケットではなくフリースを分厚い重ねてもいいのでは?」と疑問に思うかもしれないが、ただでさえ荷物が嵩張る雪山登山ではやはりダウン頼りになってしまうというのが現実のようだ。

なにで寒さをしのぐかを考えると同時に、なにを持っていくとかさばらないか・重くならないか、のバランスを考えるのも、登山をする上での楽しい考察ですよね*
以上、「寝袋内で着込むのは逆効果?」の実験結果とリサーチ結果でした。 今後まだまだテント泊を実践して、気が付いたことなどをブログで更新していけたらなと思います♪