登山店へ出勤の日。(写真は出勤日の朝の風景)
ウェア部門、ギア部門とあるなかで、今日はギア部門を担当する日だった。
ギア部門といっても種類は様々で、登山靴、ザック、ポール、シュラフ、テント、小物などなど、数えきれないほどの商品を取り扱っている。
その上、毎年春前・秋前に新商品も発売されるので、スタッフのわたしたちにとってはその数多くの商品ひとつひとつの特徴を頭に入れ、お客様にお伝えすることがなにより大変なミッションだ。
すべて頭に入れておくことはなかなか不可能に近く、フィールドで試した商品ならスラスラと言葉にできるのだが、そうでなければカタログや、ポケットに入れているボロボロになった商品メモをコソっと確認しながら紹介する、そんなことも実はよくある。
今日は、あるお客様に「ちょっと教えてほしいことがある」とお声をかけていただいた。そのお客様が手に持たれていたのは、テントの中に敷くマットだった。
「この商品と同じ商品はどれ?」と、店頭に飾っていたそのマットを差し、そう聞いてこられた。ご年配のおじさまだった。
「ご案内いたします」と、マットエリアにお客様をご案内し、サッとその商品を取って差し上げる。
というのがわたしのプランだったのがそううまくはいかなかった。マットの種類が何十個もある。同じマット、同じパッケージでも、サイズや厚みが違う。
「こちらです」「あ、ごめんなさい、こちらでしたね」と、二度三度てんやわんやしてしまった。挙句の果てには「これじゃないん?」と、お客様が商品を見つけてくれたのだった。
お客様の呆れた顔を見逃さなかった。このタイミングだ。私が信頼を失ったのは。
そのあと、挽回するべくお客様の前で商品をパッケージから出し広げ、実演をおこなう。なるべくスムーズなご案内ができるように平然を装う。だが内心焦っていた。
「車中泊に使いたいんやけど、これって車中泊だとちょっと薄すぎるかな?」「これって、空気入れるのに何秒くらいかかる?」「んー空気を入れれるタイプは嫌やねんけど、それやったらどれがおすすめ?」
次から次へと質問をされるお客様に、どこまで的を外すことなくご案内ができるか、に全集中だ。こうなると、ややお客様のペースとなってしまう。
たぶんわたしはあまりそのお客様にとって役立つ言葉を言えてないんだろうなと、感じ取ってはいた。
最終的に一つの商品に目星をつけられたのだが、そのサイズ違いも広げてみてみたい。とのことだった。
今度こそは。
わたしはその商品がどこにあるかを真っ先に見つけることができた。ヨシ。
とわたしのガッツポーズとウラハラに、お客様が放ったのは「ちゃうやろ。」「これじゃないやん」。
「あ、こちらで間違いございません」
「ちゃうやん」
「この商品の、サイズ違いですよね?」
「だから、これの180cmやって!」
「えーと、この商品の、180cmバージョンでしたら、こちらで間違いありません」
「なんでなん、違うやろ」
・・・
あ、わたしさっきこのお客様から信用を失ったんやわ。わたしの言葉、届いてない。
そう気が付いた。
すぐに、近くにいた同僚に声をかけた。
「●●さん、お客様が探されているのがこちらの商品でお間違いないかどうか、一緒に確認してもらえますか?」
その同僚もなにかピリっとした雰囲気を察したのかすぐに飛んできてくれた。
そして商品をみて「はい!180cmの商品はこちらで間違いございません!」と一言。するとそのお客様もようやく「そうかそうか、それやったらいいねん、じゃあ広げて見せてくれる?」と言ってくれた。
(もっと早くに、まず広げてみるべきだったな、とあとで思った。)
同僚のおかげも大いにあり、最後は、そのマットを購入していただくところまでもっていけたので結果はオーライ。
だがわたしはそのあと、ひとり反省会。反省、というか悔しかった。
商品がどこにあるかすぐにご案内する、というのも、小さなことかもしれないが大事な仕事だ。さらに、商品の違いやそれぞれの特徴も、ひとつひとつ説明できるにこしたことはない。
もっというと、お客様が一番求めているのは「実際の使用感」や「実際に使ったことのある人の声」だ。そのためにはやっぱりフィールドに出て、いろんな商品を試すしかない。
登山店で働き、少しでもお客様の役に立ちたい、とう思うのであればこれはマストだ。
接客で悔しい思いをするたびわたしの「山に行きたい!」欲は高まるばかりなのでした。